院長ブログ
Vol.49 「人との会話」と「咀嚼嚥下」と「消化力」の密な関係(消化力シリーズ2)
2023年03月26日
前回、歯科矯正中の咀嚼力低下から消化力が落ちる話をしました。今回は、咀嚼嚥下に関係するもうひとつ大事なお話。噛む力、飲み込む力についてです。
咀嚼嚥下と筋肉
咀嚼嚥下運動は、表情を作っている表情筋と顎の開閉を行う咀嚼筋と嚥下に関係する喉頭筋肉群が主に協力しあうことで実現されています。ですからこれらの筋肉のいずれかでも弱ると咀嚼・嚥下に支障を来します。パートナーに先立たれて独居となった高齢者が急に体力を落とす一つの原因として、会話が途絶えて表情筋が落ちることで咀嚼嚥下の力が落ちて、充分に咀嚼せずに飲み込むことが消化力を落として気力を削ぎ、飲み込みが悪くなることから、食べる事が億劫になることがあると考えています。また、心配事を抱えているとき、体がこわばっていて、首〜肩の筋肉が張って来くると、首、肩の筋肉と協調運動をする喉頭筋の動きが制限されて物がのどを通らなくなります。交感神経が過剰に働くと胃腸の動きも低下します。そして、酷いときには喉に親指大の飴が詰まったような感覚になることもあります。これを漢方用語で梅核気と呼んでいるのですが、これらの現象は過緊張と関連しています。
過剰はいけません
咀嚼嚥下から話題はそれますけど、咀嚼筋が弱くなると、しっかり歯を食いしばれなくなり、腹に力が入れられなくなる→集中力、持久力が低下することもあります。というものの、逆に、力が抜けなくて、常に力が入っていて、疲労が抜けなくなっている人もまた多いです。何事も過剰はいけません。さらについでに申し上げますと、咀嚼嚥下をスムーズに行うためには、表情筋を維持することがとても大事です。その一方で表情筋を鍛え過ぎると皺が増えるということで、表情筋を鍛えるな、と言う人もいます。一度、検索してみて下さい。沢山出てきます。このとき、気をつけて欲しいのですが、「鍛え過ぎる」という言葉が使われています。何事も過ぎたるは及ばざるが如し。闇雲に鍛えたら良いというものではありません。ひとつこれが良いと聞くと、よっしゃ!やったるでーと頑張るのは思いとどまって下さいね。無理に鍛えるのは有害です。「維持するのは大事」≠「鍛える必要がある」なんですね。衰えた人が咀嚼に必要な程度の筋力に戻すために鍛える事が必要だと表現したのを曲解して、誰でも常に鍛える必要がある、としてしまってはいけません。国会中継などを見ていると、こう言うすり替え論法を使って難癖をつけている議員がいて見苦しく感じる事がありますが、言葉は丁寧に使い、丁寧に理解する必要があると思います。
人と関わりを持つ事
さて、お話ししてきたように、表情筋・咀嚼筋を維持すること、首・肩の筋肉を緩めて喉頭筋が自由に動けるようにしておくことはとても大切です。それは何を意味しているのかと言うと、私達人間は、人との関わりの中で生きる存在だという事です。人と関わり、会話をし、表情豊かに過ごすこと。その関わりの中で自然と笑顔が溢れてくれば、それは最高ですね。何か刺激を求めて歯を食いしばって頑張り続けていたら、食べ物が喉を通らなくなります。一人暮らしになったご高齢の方に私は、「なんでもいいので、読むとほっとして心が温かくなる本を音読して下さい」、といつも申し上げています。音読すると言う事は、本を通して人との関わりをもつということでもあります。私達は、人との関わり合い、環境との関わり合いの中で生きる存在です。咀嚼嚥下機能の安定は健康への第一歩、消化力安定の要です。